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池宮中夫/秋田県立聾学校中学部

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平成28年1月20日 6名/全校生徒
内容
舞踏やコンテンポラリーダンスなどジャンルにとらわれない身体表現をスタイルとする講師が、「生命感の躍動と希望あふれる夢」をテーマに実演し、生徒がそれを体験した上で動き・メイク・衣装などを総合的に考える。参加した生徒のポーズを写真で撮り出力したものをコピーで拡大し、等身大の自分を提示した作品空間を作り校内で発表する。

 

 

 


第33回目の芸術家派遣授業は、講師に池宮中夫さんを迎えて秋田県立聾学校中学部にておこなわれました。生徒たちが集まった教室のホワイトボードには「さっきの自分と旅するワタシ」という授業テーマが掲げられています。授業開始を告げるチャイムから程なくして、オリエンタルな衣装を身にまとった熊谷紀子さんと小林加奈さんが教室に入ってきました。ふと生徒たちが外に目をやると、真っ赤なマントをまとった姿の男性がいます。この日の講師、池宮中夫さんです。池宮さんは雪の積もる中庭で、風を浴びるように天を仰いでいます。風の強さや流れに身をゆだねるように、池宮さんの身体が少しずつ動き始めました。真っ赤なマントが風で翻ります。足下から雪を掬い上げ宙に向かって投げます。雪が太陽の光を受け、微かな光を放ちました。そして倒れ込むように雪の中に身を横たえます。起き上がると池宮さんは雪の中を駆けていきました。実演の間、池宮さんに生徒たちは熱い眼差しを向け続けていました。教室の中でも熊谷さんと小林さんのダンスが始まります。玉虫色に輝く大判の布をはためかせてしなやかに動く熊谷さん、弾けるように跳躍する小林さん…2人は対照的な動きをしながら、教室の中で自在に踊り続けます。小林さんがある生徒に、自分が羽織っていた黄土色の布を着せました。生徒は一瞬戸惑ったような表情を見せましたが、目の前の小林さんの動きを真似て、はにかみながらゆっくりと手を動かしました。

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演舞を終えた3人が教室で、今回のワークショップのテーマについて説明しました。「まだ自分が知らない自分に会えるのを楽しみにして欲しい」池宮さんは生徒たちにそう話します。
まず池宮さんと生徒たちは手をつないで大きな輪を作りました。前に歩み寄りつないだ手を高く上に掲げ、後退しながら再び大きな輪の形に戻っていきます。池宮さんや他の生徒たちとの距離がぐんと縮まり、少し照れくさそうな生徒たち。しかしその表情には笑みが浮かび、身体とこころの緊張が和らいでいるのを感じます。生徒たちは2人ずつのグループに分かれ、池宮さんら3人の指導のもと、身体を動かし始めました。それぞれのグループは異なる動きをしているはずなのに、時折シンクロしているようにも見えます。
身体が温まってきたところで、生徒たちは衣装を選びました。様々な色や柄があります。どの衣装にしようか?少し悩んでいるような表情の生徒たちでしたが、熊谷さんと小林さんが「これはどうかな」と衣装を薦めると、「これに決めた」といった表情で衣装を手に取り始めました。選んだ衣装を身にまとった生徒たちは走ったり、くるくると身体を回転させたりして、自分の身体の動きによって変化する布のはためく様を楽しんでいます。

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今度はメイクに挑戦します。眼鏡やハンドメイドの帽子などの小道具や、アイシャドウや頬紅などが並ぶ菜が机を見た生徒たちから、歓声が上がりました。ある女子生徒は熊谷さんにブルーのアイシャドウと、猫のような鼻とヒゲを模したラインを入れてもらいました。鏡を見た本人も嬉しそうに満面の笑みを浮かべています。男子生徒たちは一風変わったデザインの眼鏡に夢中のようです。友人と眼鏡を交換し合いながら、気に入ったデザインのものを探します。また、池宮さんの勧めで、眼鏡のツルに画用紙をつけ、様々な工夫を施しています。メイクが完成したところで、ポートレートの撮影が始まりました。生徒たちは思い思いにポーズを取ります。生徒たちのポーズや表情を見ていると、自ら選んだ衣装やメイク、小物の雰囲気に合わせつつ、自分の中でキャラクターを設定しているように感じられました。撮影されたポートレートは拡大して出力し、等身大のパネルに仕上げました。パネルを製作中、男子生徒は小林さん、女子生徒は熊谷さんとともに振り付けを考えます。振り付けが決まった後は、手の動かし方や首の角度など、細部の動きを丁寧に確認し合い、完成度や表現力を高めている様子でした。
完成したパネルが教室に運び込まれると、生徒たちは驚きつつも、嬉しそうな表情です。パネルを見ながら、動きを再確認する生徒もいました。そして早速実演の披露です。生徒たちは最初少し緊張している様子でしたが、次第に動きが軽やかになっています。そして等身大のパネルの前で、即興で動きをつけました。生徒たち一人一人が写真に写った「さっきの自分」と向き合い、生まれた一連の動きにはストーリーが感じられます。生徒たちの動きを見つめる池宮さん−−その姿から思い起こされるのは、生徒たちが池宮さんのダンスに向けた、あの熱い眼差しでした。

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講師略歴
1959年東京都生まれ。1989年旧西ドイツにて多くの舞踊作家に学び、欧州各地、韓国等でソロ活動。1992年よりダンスカンパニーノマド~s 参加。演出、美術、振付家として、国内外で作品を上演する。空間性の強い作品を特徴とし、劇場のみならず美術館や倉庫でも上演。主な作品に「Standing- 赤い紙-」「顔と歴史- ひとつの小さな夜-」「The damp elements- 横たわる湿潤-」「時の花-Flowers and Time-」など。